HONDA「ビーチクリーン活動」in館山
久保田 武蔵
このような場所で子供の笑顔を見ることができるとは思わなかった。
ゲーム感覚でゴミを拾い、拾ったゴミの量を競い合う子供達。子供達のこの姿を見ただけで、参加させていただいたことの意味がある。そして、この活動の意味がある。
「素足で歩ける砂浜を次世代へ」。
2008年9月27日と28日の両日、館山市の名護海岸でビーチクリーン作業が行われた。
ゴミを回収するHONDA製のバギーが砂浜を走り回り、その場には凄まじい砂嵐が吹き荒れる。その後、砂浜をかき回した後に出てくるゴミを拾い、回収するのである。現在、全国各地で行われており、この活動は爆発的な勢いで各地に広まっている。
初日の27日。私は最初から参加することはできなかった。レポーターとして参加させていただいているテレビ番組の撮影終了後、そのままその足で館山まで車を走らせた。道中、いろいろなことが頭の中を駆け巡る。どのような形でゴミを回収しているのだろうか。どのような方々が作業に参加されているのだろうか。そして、どれほどの量のゴミを回収できるのだろうか。とにかく、期待に胸をふくらませて会場へ向かった。
高速道路を走っていると、ハンドルがやけに重い。道路沿いにある木々が躍っているような姿を見て、理由が分かった。ものすごい風であった。台風時と比べても引けを取らないほどの強風である。そしてそこに大雨まで降ってきた。とんだお出迎えである。しかし、館山に近づくにつれて雨は弱まり、市内に入ると雨は止んでいた。普段の私の行いのせいかもしれない(笑)。
会場に到着すると、赤い帽子をかぶった男性が笑顔で迎えてくれた。本田技研工業株式会社社会活動推進室主任の岡部氏である。岡部氏とは「交通安全」を通じて知り合い、それ以来お付き合いさせていただいている、とても熱いハートを持った男性である。そんな彼と知り合った関係から、今回の取材を申し込んだ。彼がどのような仕事をしているのか、そして近隣住民の方々がビーチクリーンの活動に対してどのような反応を示すのか、それらを知りたかったのだ。きっかけはそこだったのだが、イベント終了後に私は思いがけない「宝物」を手にすることになるのである。
現場に到着。初日はご挨拶と様子観察。雨は止んでいるものの、風は相変わらず台風並みである。雨が降っていない分、砂埃が舞い上がる。そして、目、鼻、口、耳などの穴という穴に嫌というほど砂が入り込んでくる。ポケットに入れていた私のデジタルカメラにも砂が入り込み、その場で故障してしまった。それほどまでに過酷な状況下で、スタッフの方々は黙々と作業を進めていた。お互いを気遣い合い、己の役割をしっかりとこなしていた。皆さんが作業をされている間、私は館山市の職員である川名氏とお話をさせていただいた。彼は空手家で、私も総合格闘家。話が合わないはずがない。初対面とは思えぬほど話が盛り上がり、この活動に対する本気度と意気込みが伝わってきた。実際参加させていただく2日目が楽しみになってきた。
1日目の作業が終了。宿へ行き、シャワーを浴びると、ユニットバスのバスタブは砂まみれになっていた。体中の穴という穴から砂が溢れ出てきた。ここまで砂まみれのバスタブを見たのは初めてだった。まるでココアである。少しの間お邪魔した私でさえこのような状態なのだから、スタッフの方々のバスタブはブラックコーヒーだったに違いない。この後、スタッフの方々と食事へ出かけた。1日目を無事に終了したという安堵感からくる皆さんの穏やかな笑顔は、ビールの味を5倍ほど美味しくしてくれた。取材で入らせていただいている私でさえそう感じるのだから、スタッフの皆さんにとってはもっともっと美味しいビールだったはずである。
2日目。前日の天気が嘘のように、穏やかな天気である。砂浜には、サッカークラブの子供達の姿。川名氏によると、このチームの子供達、地域住民の方々、そして地域の子供達がこの活動に参加してくれるのだという。楽しみになってきた。早速、子供達とコンタクトを取る。子供達の本音を聞くことや、その子達と行動を共にするには、仲良くなってしまうことが1番なのだ。お互いゲラゲラと笑い合いながら話をしているうちに、イベントが開始となった。館山市長の話、本田技研工業株式会社社会活動推進室室長である小林氏の話により、子供達の興味がこの活動とHONDA製のバギーに注がれる。両氏の「願い」とも受け取れる考えを、どれほどの参加者が理解しただろうか?ここで聞いた話は、私の心の奥底にも強く響くものであった。また、生半可な気持ちでこのイベントに参加させていただくわけにはいかないと、自分の心に言い聞かせた。
その後、急遽私がゲストとして話をさせていただくことになった。子供向け番組に体操のお兄さんとして参加中、体操や交通安全のイベントなどで35000人の子供達と触れ合ってきたという私自身の経験を知る岡部氏の、粋なはからいであった。別の仕事で持参していたチャンピオンベルトがあったため、急遽このベルトを巻いての写真撮影を賭けての「ゴミ回収王座決定戦」を提案し、子供達にゲーム感覚でイベントに参加してもらうことにした。この提案に盛り上がってくれる参加者達。あとはイベントを開始するだけである。とにかく、しらけずに盛り上がってくれて安心した(笑)。
体に似合わない大きなゴミ袋を手に、
「俺が1番多く拾う!」
と鼻息の荒い子供達。この姿を私は見たかったのだ。イベントがスタートすると、子供達は一斉にゴミを拾い始めた。海岸だけに、ゴミの種類もバラエティに富んでいる。様々な種類の貝殻、海藻、見たこともない種類の洗剤の容器、ワタリガニ、空き缶、空き瓶。中には、トタン板や大きな流木を拾う子供達もいた。ゴミを見つけるたび、拾うたびに白い歯を見せて自慢し合いながら大笑いする子供達。この笑顔を見て、私が小学生だった頃を思い出した。大きなカブトムシやザリガニを捕まえるとクラスのヒーローになれたのだ。今回の活動のゲーム性という部分は、その感覚に似ているのかもしれない。
あっという間にイベントが終わった。その砂浜は、ゴミのひとつさえないように感じるほどきれいになっていた。ここで、ゴミの軽量を開始。勝負は一瞬に決した。優勝は、とてつもなく大きな流木を拾った3人兄弟だった。チャンピオンベルトを誇らしげに持ち、写真に納まるチャンピオン達。満面の笑顔の子供達を見ていると、こんなベルトでも獲ってきたことの意味があるというものだ。みんな、おめでとう!
砂浜にあるゴミを拾うことは、ゲームとしては楽しかったはずである。実際、
「また一緒にゴミ拾いをしようね!」
と子供達が声をかけてくれた。私は言った。
「おう!貝殻、海藻、流木なんかは仕方ないけど、人間が原因のゴミは無くそうな!ゴミ拾いゲームはおもしろいけど、ゴミ拾いが早く終われば余った時間でもっと楽しく遊べるぞ~!」
この言葉が、私の気持ちのすべてである。うなずく子供達の眼は、ギラギラと輝いていた。私は子供達の子の目が大好きだ。この眼を見るために、子供達とふれあっているといっても過言ではないかもしれない。お金で買うことのできない『宝物』なのだ。
イベント終了後、この砂浜でサッカーをするサッカークラブ生達。自分たちできれいにした砂浜でプレイするサッカーは、どのような気分なのだろうか?この活動に参加し、頑張った人間だけが味わうことのできる、特別な気分であろう。私も一緒にプレイしたい気分だった。都合のために泣く泣く帰るはめになったが、実に清々しい気分で海岸を去った。手を振ってくれる子供達の姿がとても印象的な昼下がりであった。
追伸、最後に、無理を言って取材をさせていただいて本田技研工業の岡部氏、館山市の川名氏、そして現場にいらしたすべての方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。素晴らしい体験をありがとうございました。